胃潰瘍と十二指腸潰瘍
胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、以前に比べて患者数は減少しています。これは、治療に有効な薬剤の登場や、原因の一つであるピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)を除菌する治療が広く普及したことによるものです。
一方で、解熱鎮痛薬や抗血小板薬など(NSAIDsなど)の薬の副作用によって起こる薬剤性潰瘍は増加しています。ピロリ菌を除菌しない場合には再発を繰り返しやすいため、注意が必要です。
当院には内視鏡専門医が3名在籍しており、院長は長年にわたり多くの消化器疾患の診療に携わってきました。潰瘍の治療だけでなく、その後の継続的なケアにも力を入れております。さらに、充実した消化器系検査設備を整え、予防や早期発見にも積極的に取り組んでいます。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍とは
食べ物の通り道である消化管(口から肛門まで)の内側は、粘膜で被われています。粘膜の下には粘膜筋板、粘膜下層、筋層、漿(しょう)膜といった部分があり、これらが消化管の壁を構成しています。
「潰瘍」とは、このような消化管の壁がさまざまな原因によって傷つけられ、えぐられた状態をいいます。一般的に、粘膜の傷が粘膜下層より深くなった状態を「潰瘍」、粘膜下層に達しない浅い状態を「びらん」と呼びます。
潰瘍が進行して筋層や漿膜にまで及ぶと、胃や十二指腸の壁に孔(あな)が空き、内容物(食べ物や胃酸など)が腹腔内にもれ出して「穿孔(せんこう)性腹膜炎」を起こすことがあります。このような状態になると命にかかわる危険があります。
また、潰瘍が血管を傷つけると「消化管出血」を起こし、吐血や黒色便(タール便)として現れることがあります。出血量が多い場合には、貧血やショックを引き起こすこともあり、早急な治療が必要となります。
なぜ潰瘍が
できるのでしょうか?
1)粘膜が侵食されるわけ
胃は胃液を分泌し、口から入った食べ物と混ぜ合わせてドロドロに溶かす(消化する)働きをしています。胃液には強い酸(塩酸)や消化酵素(ペプシン)が含まれており、食べ物だけでなく胃そのものを傷つけてしまう力があります。
しかし、胃の粘膜にはこの攻撃に対抗する「防御機構」*が備わっており、通常は「攻撃」と「防御」の均衡が保たれているため、胃が傷つくことはありません。逆に、この均衡が崩れてしまうと、胃液が粘膜を侵食して潰瘍ができてしまいます。
*胃粘膜はアルカリ性の粘液を分泌して表面を覆い、胃液の強い酸から守っています。
胃の中でドロドロになった食べ物(内容物)は、強い酸性のまま十二指腸に送られます。十二指腸では、すい臓や胆のうから分泌されるアルカリ性の液が加わることで酸性がある程度やわらぎ、内容物は次の消化過程へ進みます。ただし、十二指腸にも酸を分泌する機能があるため、常に酸とアルカリのバランスがとられており、この均衡が崩れると潰瘍が生じやすくなります。
2)胃の粘膜が傷つきやすくなる原因
胃潰瘍は、ひとつの原因だけで起こるのではなく、いくつかの要因が重なって「胃酸の攻撃」と「粘膜の防御」のバランスがくずれたときに起こります。
生活や環境によるもの
- 強いストレスや疲れすぎ
- お酒やたばこ
- 辛い物など刺激の強い食べ物
- 薬(痛み止め〔NSAIDs〕など)の副作用
体の状態によるもの
- 胃炎がある場合
- ピロリ菌という細菌に感染している場合
(ピロリ菌は潰瘍の原因としてよく知られており、除菌治療が行われています) - 胃がんが背景にあり、潰瘍のような形で現れる場合
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の検査
診察にあたっては、まず症状について丁寧に問診を行い、必要に応じて胃カメラ検査を実施します。胃カメラ検査には、口からカメラを挿入する経口検査と、鼻から挿入する経鼻検査があり、鎮静剤の使用も選択できます。できるだけ苦痛を抑えて検査を受けていただけますので、ご希望の方はお気軽にご相談ください。
胃カメラ検査では、胃や十二指腸の粘膜を直接観察でき、びらんや潰瘍の色調・大きさなどを詳細に確認することで、確定診断が可能です。必要に応じて、粘膜の一部を小さく採取して顕微鏡で調べる「生検(組織検査)」を行うこともあります。これにより、良性か悪性(胃がんなど)かの判定ができます。
検査の詳細については、下記リンクよりご覧いただけます。
どんな症状なんですか?
潰瘍に伴う症状は、悪性腫瘍(がん)などでも見られます。そのため、症状をあなどらず、必ず診察を受けて正しい治療を受けることが大切です。
腹痛
胃潰瘍ではみぞおちのあたり、潰瘍が深いと上腹部全体、十二指腸潰瘍では右上腹部や背中が痛みます。食事と食事の間や夜間などの空腹時に痛みが多く見られ、食べて胃液が薄まると、痛みがおさまります。痛み方には圧迫感や鈍痛、あるいは疼痛(焼けるような、刺すような)とさまざまですがすごく痛いからといって、潰瘍の程度とは必ずしも一致しません。ひとによっては症状に気づかず、潰瘍が進んで胃や十二指腸に孔が空いて(穿孔潰瘍)、はじめて激痛に襲われて病気に気づく場合もあります。
胸やけ
胸やけは胃液が食道に逆流したために起こる症状で、胃液が多すぎるひとに見られます。
出血 (吐血、下血)
潰瘍の中には、出血するものもあります。出血量が多いと、悪心とともにコーヒーの残りかすのような黒褐色の血を吐いたり(吐血)、黒いコールタール様の便が出たり(下血、タール便)します。
悪心・嘔吐
胃潰瘍や十二指腸潰瘍では、炎症や粘膜の障害によって胃の働きが乱れ、食後に気持ち悪さ(悪心)や吐き気、嘔吐を感じることがあります。
また、潰瘍を繰り返すうちに、まれに胃の出口や十二指腸が狭くなり、食べ物が通りにくくなることがあります。このような場合には、食べ物が胃に停滞して悪心や嘔吐の症状が強くなることもあります。
その他、食欲不振、体重減少、便通異常なども見られます。
どのように
治療するのでしょうか?
1)潰瘍ができてから治るまで
活動期(できたての時期)
潰瘍ができたばかりの時期には、しっかり薬を内服して治療を続けることが大切です。現在は制酸薬などの薬がよく効くため、潰瘍は比較的早く落ち着いていきます。放置すると潰瘍が深くなり、出血や孔があく(穿孔)などの合併症を起こすことがあります。
治癒過程期(治りかけの時期)
潰瘍が小さく浅くなり、周囲の腫れも落ち着いてきます。この時期には腹痛などの症状はほとんど改善していますが、まだ完全に治ったわけではありません。処方された薬は自己判断で中止せず、医師の指示に従って続けることが大切です。
瘢痕期(治った時期)
潰瘍の部分が新しい粘膜で覆われた状態になると「瘢痕化」と呼ばれ、治癒したと判断できます。現在は薬の効果が良くなっており、胃潰瘍では約8週間、十二指腸潰瘍では約6週間の投薬期間が目安です。ただし、個人差があり、長期の治療や再発予防が必要になることもあります。潰瘍は再発しやすい病気のため、治った後も継続的なケアや検診が大切です。
2)治療法
生活習慣の改善
心身の安静が一番大切です。禁煙をし、飲酒を控え、食事指導に従って正しく食事をとります。
薬物療法
治療の基本は「胃酸の分泌を抑える薬」を用いることです。これにより潰瘍が治りやすくなり、出血や穿孔といった合併症を防ぐことができます。
また、潰瘍の原因としてピロリ菌の感染がある場合には、除菌治療を行います。除菌することで潰瘍の再発を大幅に減らすことができます。
手術
出血性潰瘍の場合は、まず内視鏡で止血を行います。
しかし、出血がコントロールできない場合や、潰瘍により胃や十二指腸に孔(あな)があいて腹膜炎を起こした場合には、外科的手術が必要となることがあります。



